朝晩の風にほんのりと秋の気配が混じり始め、草むらからは涼やかな虫の音が聞こえてくる九月(長月)。日中はまだ夏の暑さが残る時期ですが、自然界は少しずつ、確かに秋の支度を始めています。
今月のエッセイでは、白露や秋分といった暦の移ろいとともに、古来より日本人が大切にしてきた「月を愛でる」風習について綴りました。十五夜のお月見の由来や、明恵上人も心惹かれた「月光浴」による心身の浄化、そしてご先祖様に思いを馳せるお彼岸の過ごし方。
静けさが戻る秋の夜長、美しい月光に包まれて「氣」を整え、日常の中にふくよかな風情を取り入れるヒントをお届けします。
In September (Nagatsuki), the faint signs of autumn begin to ride on the morning and evening breeze, accompanied by the soothing chirping of insects. Though the lingering summer heat often remains, nature is quietly and surely preparing for the new season. This essay explores the subtle transitions of the traditional Japanese calendar, such as Hakuro (White Dew) and the Autumn Equinox, along with the time-honored custom of admiring the moon. We delve into the origins of the harvest moon (Jugoya), the purifying effects of "moonbathing" that captivated historical figures like Myoe Shonin, and the spiritual mindfulness of honoring our ancestors during Ohigan. As the long autumn nights invite tranquility, discover how basking in beautiful moonlight can restore your Ki (inner energy) and bring a sense of elegant serenity to your daily life.

白露と七十二候:虫の声に秋の気配を。自然の微細な変化を味わう九月の暦
九月を迎えると、朝晩を中心に秋の気配が漂い始めます。
といっても、「まだまだ夏と変わらない」と感じる人のほうが多いでしょう。
季節感が薄れてきている今、私たちはみずから感性を研ぎ澄ませ自然に向き合わないと、微妙な変化に気づくことはできません。
蝉しぐれが遠のき、吹きすぎる風の湿度が変わるのを感じてみてください。夜になれば、草むらから虫の声が聞こえてきて、秋が訪れようとしているのを感じるでしょう。
九月の暦は白露(七日頃)から始まります。
夜の間に草木に宿る露が朝日を受けて白く光ることから名づけられたこの節気は、秋の兆しを告げるもの。
寒冷地や標高の高いところでは文字通り白く光る露が見られるのでしょう。 七十二候では三日から七日頃が「禾乃登(こくものすなわちみのる)」。稲穂が実り、田んぼは黄金色の波に染まっていくことを表わしています。八日から十二日が「草露白(くさのつゆしろし)」、十三日から十七日は「鶺鴒鳴(せきれいなく)」と続きます。
渓流のほとりなどで見られる鶺鴒は、尾を振る様子がとても可愛らしいことで知られています。
十八日から二十二日頃は「玄鳥去(つばめさる)」。玄鳥とは燕のことです。春に渡ってきた燕たちが南の空へと旅立つ時。悠々と飛ぶ姿を追ってみれば、空が高く澄んできていることを実感します。
自然はゆるやかに秋の支度を始めているのです。

十五夜と中秋の名月:お月見の歴史と由来。十三夜をあわせて愛でる風習
九月はなんといっても十五夜です。
十五夜は「中秋の名月」ともいわれ、古代中国に遡る、旧暦八月十五日の明月を愛でる風習です。日本には奈良から平安時代のころに伝わり、貴族たちの間に広まりました。
観月の宴をひらき、月を愛でつつ歌を詠む。なんとも優雅ですね。江戸時代には庶民にまで広まり、お月見団子やススキを備えるようになったのも、この頃からのようです。
十五夜を「芋名月」とも称しますが、ちょうど里芋の収穫時期で、もとは里芋をお供えしていました。それが江戸時代終わり頃から、お団子のほうが多くなってきたようです。ちなみに、十三夜は栗名月とされ、栗がお供えされます。十五夜と十三夜は両方愛でるのがよいとされ、片方だけでは「片見月」となってしまいます。
月光浴の浄化作用:明恵上人の和歌に学ぶ、心身の「氣」を整え癒やす夜の過ごし方
あかあかや あかあかあかあかあかあかや
高山寺の明恵上人(鎌倉時代初期の僧)の和歌です。
下の句は「あかあかあかあか あかあかや月」と続きます。一瞬、ふざけているように感じてしまいそうですが、そうではありません。明恵上人は子どものように純粋な心で月を愛で和歌に詠んだのです。そして、その時の心象はどこまでも清らかだったことでしょう。
月には浄化作用があるとも言われますが、暑さも一段落した九月の月光浴は夏の疲れを癒やしてくれそうです。月の光に包まれることで不要な感情や雑念が洗い流され、心身の「氣」が整ってきます。また、月は無意識や潜在意識の象徴とも位置づけられているため、直感が研ぎ澄まされていくともいわれます。
暗く静かな環境で月の光を浴びることで、緊張状態から解き放たれ、リラックスできるのは誰もが感じるところでしょう。おだやかな呼吸は副交感神経を優位にするため、睡眠の質を向上させる可能性もあります。
夏の疲れが出始める頃です。
夜空の月を愛でながら、ゆったり過ごしてみましょう。
秋分とお彼岸:ご先祖様と繋がり、秋の夜長に感性を育む「長月」の風情
九月二十三日には秋分を迎えます。昼と夜の長さが等しくなり、これを境に夜がしだいに長くなっていきます。秋のお彼岸でもあるので、仏前に手を合わせ、ご先祖とのつながりを感じてみてください。
七十二候ではこの頃から「雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)」です。夏の雷鳴が遠ざかり、空の表情に落ち着きが戻ります。
二十八日頃からは「蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)」。虫たちが地中に姿を隠し、自然界は少しずつ静けさを深めていきます。
長月の名のとおり、夜が深まり、静けさが戻ってくる季節。虫の声に耳を澄ませつつ読書をするのもいいものです。そんな夜の過ごし方に、感性はふくよかに育まれていくのでしょう。
秋の入り口で、日常の中にわずかでも風情あるひとときを設け、心を整えていきたいものです。

写真:すべて魚住心
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