毎日使う器が、人生の「時間」を豊かにしてくれるとしたら?
約1年半ぶりに訪れた松本民藝家具のショールームで出会ったのは、使うほどに育つ瀬戸焼(瀬戸本業窯)のお皿でした。柳宗悦の言葉や、映画『人生フルーツ』の「ときをためる暮らし」に触れながら、不安な時代にこそ大切にしたい「心の豊かさ」と「美しい景色のある暮らし」について綴ります。日々の暮らしを慈しみ、伸びやかに生きたいと願う方へ届きますように。

What if the dishes we use every day could enrich the "time" in our lives? During a visit to the Matsumoto Mingei Furniture showroom, I encountered Seto-yaki plates that grow and mature with daily use. Inspired by the philosophy of Muneyoshi Yanagi and the concept of "accumulating time" from the documentary Life is Fruity, this piece explores the true meaning of wealth. In an uncertain world, embracing the beauty of everyday life and cherishing our time becomes our greatest treasure. Join me in discovering the art of a life beautifully lived.

濃い茶色のテーブルに並んだ4枚の瀬戸本業窯の皿。江戸時代から同じ模様が受け継がれている「馬の目」と黄瀬戸。

1. 【松本民藝家具と瀬戸焼】「育つ器」に見出す用の美

真に美しい器物とは、使われつつある時の器物である。

『茶と美』柳宗悦

約一年半ぶりに訪れた松本民藝家具のショールーム。
今回は江戸時代から変わらない模様が描かれた瀬戸焼のお皿を買いました。お皿に添えられていた紙に書かれていた言葉が感動的だったのです。

「育つ器」と題されていて、使えば使うほど味わい深くなること、やがて年月を経て「古陶」の姿を醸し出してくれること、窯から出された器は使われない限りは無であり、毎日毎日使われることによって完成されていくこと・・・

そして、最後に

「ご自分の器を完成させていただければ幸いです」

とありました。

2. 瀬戸本業窯が教える「経年変化」と価格以上の心の豊かさ

お値段は、一枚4400円と、ちょっと構えてしまうのですがでも、考えてみれば北欧ブームで多くの人がこぞって買うような器も似たような価格(アラビアとか、イッタラとか)。

そういう比較をついしてしまうのは、私の中での「心の整理」であって、価格だけで判断しようとしてしまっているその視点を変えるためなのです。

意識の次元をもっとあげて、価格だけではない、向こうに拡がる世界を見る感じ。

その時、お皿に添えられていたラベルの言葉が私に寄り添ってくれました。意識の次元を上げてくれたのです。

瀬戸本業窯の器は、一般に普及している磁器製品とは風合いも違い、手になじみ温もりをあたえてくれます。使えば使うほど貫入(ヒビ割れではない)に時代が入り、愛用度を増し、やがて古陶の姿を醸し出してきます。

窯から出された時の器は使われない限り無であり、使い手に渡り毎日毎日使い込み、食をうるおわせながら器の美しさが完成されます。

瀬戸の土は使われる為に恵を得た資源です。何度もお使いいただくうちに、ご自分の器を完成させていただければ幸いです。

ああ、そうなのだ。この一枚のお皿が私の暮らしを豊かにしてくれる。私と一緒に育って、私の暮らしの中で完成されていく。

そしていつか私がこの世を去るときに、私によって完成された器に残された人たちは面影を見てくれるのかもしれない。

そんなことを思ったら、なんだか、4400円を「構えてしまう」と感じている自分がどれほど貧しいかを感じました。

それでやっぱりこれは私の人生のお伴にしようと思って買ったのです。

それも、異なる器(どれも手づくりだから違っています)を店員さんに相談しながら、迷ったあげく

「じゃ、この4枚をください」

店員さんもビックリしていました(笑)

3. 映画『人生フルーツ』に学ぶ、「時をためる」豊かな暮らし方

こういう思い切りは散財とはほど遠いのです。

むしろ「蓄財」にさえなると思いました。

お金は貯まらないかもしれないけれど、あたたかな「時」が貯まる暮らしです。

そう、時を貯める暮らしです。

実は、この「時を貯める暮らし」とは、私の発想ではありません。

もしかしたら「あの」映画をご覧になった方はお気づきかもしれない。

4. 不安な時代だからこそ、日常の「景色」を慈しむ日本の美意識

私はいま、あらためてこれからの来し方(こしかた、という言葉が好きです。生き方よりもしっくりくる)について模索しています。

もう終わりが見えはじめている人生、少なくともこれまで生きてきた年月よりは長くはない人生の時間を、私は、精いっぱい慈しみたい。

愛する人と、最後の時を大切に紡いでいきたい。

不安が先立つ世の中にあって、多くの人は意識的にも無意識的にも「お金」を追いかけてしまいます。

お金をいかにして貯めるか、投資をしてどれだけ蓄えを増やすか、そんな話題が大人気です。

もちろん私もお金がなくなるのは不安です。

私のような吹けば飛ぶような独立自営者は、冗談ではなく生きられるかどうかという問いといつも差しで向かい合わざるを得ません。

でも、それでも、だからこそ、私は「時を貯める暮らし」に振り切ろうと決心しました。

縮こまって生きるのがごめんだからです。

いつ何がどうなるかわからないからこそ、物質を抱え込むよりも、「時」だとか「想い」などの、目に見えないものを大切にしたい。

こんな視点を、もしよろしければ持ってみてください。

不安な世の中だからといって、あれこれ我慢して、縮こまって生きていきるのではなく、小さな願いを叶う限り叶えながら伸びやかに生きてみる。

購ったこのお皿たちを、毎日、食卓に並べながら、私は心から嬉しい気持ちを味わっています。

ちなみに食卓は、バーナード・リーチがデザインしたテーブルで、今はもうなくなってしまった北海道民藝家具のユーズドです。

松本民藝家具と同じくミズメザクラを使っていて、このテーブルに器を載せた景色は本当にうっとりします。

器物が置かれた様子を、茶の湯では「景色」と言います。

暮らしのなかに、どれだけ美しい景色が存在するか。

そんなふうにして貯めることができた「時」こそが、いつか天に還るとき抱きしめて持っていけるものなのです。

今の窓辺に置かれた民藝家具のテーブルと椅子。窓の外は緑があふれ、美しく落ち着いた空気が流れている。

5. 良い器は、料理を盛り付けた時の「景色」で完成する

松本民藝家具で購った瀬戸焼を、さっそく使ってみました。

思った通りの味わい深さです。

お料理でもお菓子でも、さまになります。

茶道では、見た目のことを「景色」と言います。お茶碗や棗、茶杓などお道具そのものや、それらの取り合わせなどをさして「よい景色のお茶碗ですね」などと言うのです。

瀬戸焼の器そのものも景色が良いですが、盛り付けるともっと良くなります。

もうさんざん使っていて、さまざまなお料理を盛り付けてきたのですが、つい写真を撮り忘れてしまいます。冷めないうちにと食べる方にばかり気持ちが向くためです。

それで今回は、ケーキを盛り付けた写真になっています。

米粉の抹茶パウンドケーキを焼いて、ホイップクリームとブルーベリージャムを少し添えました(本当は小豆にしたかったのですが、なかったのです。でも、生クリームだけでは景色が締まらないので、やむなく。ただ、これも悪くはありませんでした)。

黄瀬戸のお皿に盛り付けた手づくりの米粉抹茶パウンドケーキ。お皿だけで見るよりも、いっそう趣が感じられます。

馬の目皿と、黄瀬戸と、どちらに盛り付けようか一瞬迷って、今回は黄瀬戸にしました。

抹茶ケーキの色と、あえて同系色でまとめたのです。

いつも思うのですが、お料理やお菓子を盛り付けると、器はいきいきとしてきます。これこそが柳宗悦の言う「用の美」なのでしょう。

6. 「せともの」の歴史:高級品から江戸時代の日常の器へ

うつわのことを、昔の人は「せともの」と言いました。

私が幼い頃、母もそう言っていたのをうっすらと憶えています。

もともとは瀬戸焼のことを指していたのですが、それがだんだんと器の代名詞のようになってしまいました。いかに瀬戸焼が普及したかを物語っています。鎌倉や室町の頃には高級品だった瀬戸焼が、庶民に広く普及したのは江戸時代。瀬戸焼は江戸時代の「量産品」だったのです。

丈夫で使い勝手がいいのも庶民向きだったのでしょう。

釉薬をかけて焼き上げるため表面がガラス質で覆われ、耐水性が増します。水を吸収しづらいということは、縁が欠けたりすることも少なくなります。

釉薬がもたらす独特の艶も魅力でしょう。

使い勝手が良く美しいものが、ごく一般の家庭に普及した背景には、海外では「パックス・トクガワーナ」と称される200年あまりの平和な時代だったせいもあるのでしょう。

7. 瀬戸焼の正しいお手入れ:電子レンジや食洗機がNGな理由

ただ、いくら瀬戸焼が丈夫だからと言って、現代の生活を基準にしてはなりません。

瀬戸焼には美しい絵柄が描かれ、中には金箔が施されたものもあります。したがって、電子レンジや食器洗浄機の使用はできません。

近ごろは「電子レンジ・食洗機対応」とされるものも出回っていますが、実際は絵付けの色が変わってしまったり、ヒビが入ってしまうことがあります。

瀬戸焼に限らず、たとえ釉薬がかかっていても手洗いに越したことはありませんし、電子レンジは御法度です。

どうしてもレンジ調理・食洗機対応にしたければ、そのために作られた食器を使う方がよいでしょう。

8. 【陶器の基礎知識】長く愛用するための「目止め」の意味と手順

陶器は磁器と違って、使い始める前にも「一手間」がかかります。

吸水性が高いため、貫入や粗い目をふさぐための作業が必要なのです。これを「目止め」と言います。

米のとぎ汁を溶かした水にうつわを入れて沸騰させ、約20分ほど煮沸します。

そのまま冷めるまで放置して、完全に冷めてから器を取り出します。

あとはぬめりを洗い落として乾かすのです。

(陶器なら必ず「目止め」をすれば良いということでもないようですので、取扱説明書やお店の人に確認するなどしたほうが無難です)

また、吸水性が高いということは、カビが出やすいということでもあります。

洗った後はすぐにしまわずに、やさしく拭いてからしばらく乾かしておくとよいでしょう。

私は飾り棚の上に並べているのですが、雑貨屋さんのようで楽しいです。これもまた良い景色になります。

バーナード・リーチがデザインした北海道民藝家具のテーブルに松本民藝家具のキャプテンチェアとワイコムチェア。テーブルの上には黄瀬戸に盛り付けられた手作りのパウンドケーキと美濃焼のティーカップ&ソーサーが並ぶ。おだやかなお茶の時間の風景。
我が家のお茶の時間。バーナード・リーチのテーブルは北海道民藝家具。椅子は松本民藝家具のキャプテンチェアとワイコムチェア。ティーカップ&ソーサーは美濃焼。黄瀬戸のお皿にパウンドケーキをのせて、紅茶と一緒に。ゆったりとした時を楽しみます。

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