梅の花がひらくと、いつも口ずさむ和歌があります。
「梅の花を折りて人におくりける」という詞書きのある紀友則の歌です。
きみならで誰にか見せん 梅の花 色をも香をも知る人ぞ知る
・・・貴女以外の、いったい誰に見せようというのでしょう。
厳寒のなかで高貴な香りを放ちながら開く梅の花は、春の訪れを知らせてくれます。
今のように暖房などない時代には、どんなにか春が待たれたか知れません。
また、その香にも、現代人の何倍も敏感だったことと思います。
咲き始めた梅の花を目に、心が浮き立つような喜びを覚え、
「ああ、そうだ、あのひとへ」と、愛しいひとを想い出す。
春の訪れを伝えたくて、つい、梅の枝を折り取ってしまった。
でも・・・もしかしたら、片思い?あるいは、禁じられた恋だったのでしょうか?
「色をも香をも知る人ぞ知る」
わたしには、折り取ってしまった梅の枝を手に、なかば呆然と立ちすくむ貴公子の姿が目に浮かぶのです。
かの人への恋心は「知る人ぞ知る」、つまり誰にも言えない、気づかれてもいけない、秘められたもの。
もし、この梅の枝を持って行ったりしたら、もはや秘め続けることはできなくなってしまう。
伝えたいのに、伝えられない切ない想い。
実は今でも、こういうことはあるのでしょう。