思索のひと

村上信夫さんといえば
NHKニュース!と、連想する人が今も少なくないでしょう。
端正な顔立ちとよどみない口調、的確な間の取り方は
まさにエグゼクティブアナウンサーといった風情でした。
けれど今は
その肩書きを(どうやら)すっぱりと脱ぎ捨てて

嬉しい言葉の種まき と銘打つ活動を全国的に展開しています。

村上さんの「言葉みがき塾」の拠点は全国八カ所にもなり
あちこちに出没されているのです。

そんな村上さんとご縁をいただいたのは
『清流』(清流出版)という月刊誌がきっかけです。
村上さんが担当されていた「村上信夫のときめきトーク」という連載で
インタビューをしていただきました。


それ以来、ときおり歓談させていただくのですが
お目にかかったときは、
どういうわけか「昨日の今日」の感覚です。
つい最近も久しぶりにお食事をご一緒しましたが、
考えてみたら、その前にお目にかかったのも夏でした。
ということは、およそ一年前ぶり?!

なのに、何の緊張も抵抗もなく
時間や距離の感覚も介在しない。
ということは、(おこがましかもしれませんが)
どうやら同じ次元に生きている者同士なのでしょう。

魂友にもいろいろあって
初めて会った瞬間、「やあ、きみ!」みたいな近さを感じることもあれば
おだやかな軟水が心のひだに静かに広がりゆくような
そんな感覚を抱く関係もあります。
村上さんとは後者で
まるで「つづき」のように会話が始まり
即座に核心的な内容に入り込んでいきます。
それでいて、いかにも難しい話、深い話をしている
というような一種の重さは皆無で
秀逸なお料理も、お店の雰囲気も、
そこに漂う「氣」も楽しんでしまえます。

ただし、これはやはり、村上さんならではの
一流の心づかい ゆえのことかもしれません。

なぜ一流かといえば
おそらく、ご本人もまったく無意識のうちに、そうしているからです。

話すことは聴くこと

アナウンサー時代から今に至るまで
村上さんは伝え続けている、つまり、アウトプットし続けているわけですが、そうするには膨大なインプットが必要になります。
そこは書いて伝えることも同じなので、容易に想像できます。

有名無名問わず各界の人物と会って話を聴いておられる村上さんですが
その「聴き方」が並大抵ではないのだと思う。
相手の言葉を余すこと聴く、などというのは当然すぎることで
村上さんは、その言葉の向こうに広がる世界そのものを
全身で感じ、吸収しているのでしょう。

村上さんは言葉の達人、話すことの達人ですが
同時に 聴く達人であるわけです。

ネット時代の今、
「自分も伝えていきたい」という人が、それはもうたくさんいます。

そして実際に、おびただしい人々が発信をしています。

けれど、えてして多くが流れ去っていくのはどうしてでしょう。
それも、猛烈なスピードで流れていき後には何も残らない。

多くの「伝える人」に言えることは、「聴くスキル」が、まだ足りないのかも知れません。
言葉だけを聴いていて、その向こうに広がる世界観までは感じていないのです。
人から聴いた話を、あまり考えることなく、
ほぼそのまま伝えてしまうとすれば
言葉に深みが出ようはずもなく、上滑りするばかりです。

そこには、伝えたいという思いはあっても
相手を心底から慮るということが、あるようでないのです。

心づかいがなければ、伝わるものも伝わりません。

腹におさめ胸であたため

村上さんは全身で感じた話(世界観)をいったん腹に収めているのです。
話していると、それがよくわかる。

そこで熟成発酵させるがごとく、しばらく置いてから
伝える前にいったん胸のあたりであたため、
それから初めて言葉を口から紡ぎ出し、相手に伝えていくのです。

こういう伝え方をするには、ふだんから
ちょっとした情報でさえも、いったん立ち止まって考える
そうしたことが必要に違いありません。

実は私は、村上さんを
「言葉の達人」であり「聴く達人」である以上に
「思索のひと」だと感じているのです。

ものごとを論理的に深く考えていき、そしてある時点で
この世界は筋が通るようでいて、必ずしもそうではないとつくづく納得し、
それを許容したうえで、自分なりの筋道を立てていこうとする
そんなあり方が見えるからです。

それは、相手をどこまでも許容し、
その人に今いちばん必要な言葉を語ることに繋がっていくのです。

わかるような、わからないような話かも知れませんが、
言いたいことは、
村上さんの言葉磨きは、単に表面的な
「嬉しい言葉」「きれいな言葉」
ではないということなのです。

私も言葉にはそれなりにこだわりもありますが、
自分では意識できずに、なんとなく妙なことを言ってしまうことがあるのだろうな、と思います。

そういえばお食事中に、お店の方が
「こちら、お裾分けです」と言われた時、
村上さんは笑いながら、
「お福分けって言うとステキだと思うよ」と返しました。

いいなぁ、お福分け。

私も、すっとそういうことが言えるように
言葉磨きを楽しみます。


★『言葉の種まき』についてはこちらをご参照ください。

村上信夫 公式ホームページ

★村上さんのブログ 毎日更新されています。
https://ameblo.jp/nobu630