教養の培い方、ものを見る目の養い方

ちょうど一月前、11月なかばに、MOA美術館(熱海)にて、
【岡倉天心『茶の本』に学ぶ日本の伝統と民族の誇り】と題して講話をいたしました。
セミナーの参加者は25名、全員20代です。中には大学生もいました。
『茶の本』を読んだことがないという人ばかりですから、岡倉覚三(天心)について述べ、それから『茶の本』が出版された時代とその背景、そして内容の一部を抜粋しながら、岡倉覚三の言わんとするところを私になりに解説した次第です。

「わからない」と思ったら、それをちゃんと持ち帰って欲しい

講義の際に私が蕩々と伝えたことは、
もし、「よくわからない」「理解できない」と感じたら、それをちゃんと持ち帰って欲しいということです。そして、決して判ったような気にならないように注意して欲しい、と。
なぜなら、そこで止まってしまうからです。
教養というのは、学校や塾でテストのために行う勉強とは異なるのです。暗記すれば済むような「頭の知識」とは次元が違います。
教養とは、五感、ひいていえば第六感をも働かせて、全身全霊で感じた叡智が、抑えようもなく滲み出たもののことをいいます。
ゆえに、わかった気になるのが最も毒になる。
頭の知識だけでストップするので、どこまで行っても単なる「もの知り」にしかなれない。単なる「もの知り」は、自分が多くの知識を持っていることを誇りたがるので、最も恥ずかしい、教養のない人間となってしまう。
こういう話が禅の語録にもありますけれど、それくら昔から、「聞きかじり」「単なる知識」に止まることはさげすまれたわけです。
ともあれ、「わからない」ということをちゃんと真正面から受け止めると、それはきっと心の中に残ります。わかった気になると、すぐに流れて忘れ去ってしまうけれど。
そして、心の中に残り続けたなら、それを自分で調べるなりしてみる。あるいは、体験しようとしてみる。こうしたプロセスを経て自分の手でつかみ取ったものこそが、教養になっていくのです。

美術品は、ただ、じっと見る。見て、観て、視て、そして感じる。

ちょうどその日は仁清の企画展が開催されていました。
仁清は茶人でもありますから、お茶碗や香合をはじめとする茶道具もずいぶんつくっています。
そんなことから、『茶の本』を題材にしたのですが・・・
講義の後は、食事を挟んで、いよいよ美術品の見学です。
その際、私は、
「展示されているものを、ただ、じっと見るようにしてください。うんちくはけっこうです。ただ、そこにある物と、物が醸し出している空気を感じるようにしてください。もし、これのどこが美しいのか判らない・・・と思ったら、そのまま、その疑問を持ち帰ってください」
そう伝えました。
判ったふりくらい残念なことはありません。
また、結構な大人でも、「これは何時代の誰それが、どういうふうに作ったもので・・・」等々、うんちくばかりに夢中になっているものです。
そういう知識が実に楽しいのは、よくわかります。でも、そんなことばかり頭に入れてしまうと、「だからこれは価値がある、ゆえに美しい」などという、屁理屈になってしまいます。
それでは、感性が育つわけもなく、審美眼が養われるわけもないと私は思うわけです。
ですから、「ただ見て欲しい」と言いました。

そんな豪語をMOAの学芸員の前で堂々述べてしまったわけですが、そこは学芸員の方もさすがでした。
「実は・・・」と何を言い出すかと思いきや、
ある漆芸の作家さん(人間国宝)が、学生さん達への講義の際に、まったく同じ事を述べられたらしいのです。
私は学芸員さんの手前、ちょっと申し訳ないな、と、心中では思っていたのですが、そう伺ってちょっとホッとしました。
自分の考え方が間違っていなかったことと、学芸員さんも実はそこが大事だと思っていたこと、二重の安堵です。

教養にしても、審美眼にしても、簡単に培われ養われるものではありません。でも、だからこそいいのです。
インターネット時代には、何もかもが速くて、すぐに身についたり、簡単であることが当たり前になってしまい、時間をかけて熟成させていくことに我慢が出来ない人が増えているように感じます。
でも、それでは人間の深みも備わっていかないでしょう。

こういう時代だからこそ、時間をかけるべき所にはかける。
時間をかけていく所とは、いったい何だろう?
そうしたことをきちんと自分の中に軸として持っていたいと思います。
写真はすべてMOA美術館にて。

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教養の培い方、ものを見る目の養い方” に対して1件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    小野泉です。母がまだ体調が良かった頃MOA美術館に1度行きました。私の先生が木村武山のお軸を持っていていいなーといつも見ています。

  2. mariko より:

    小野泉さん、いつもコメントありがとうございます!
    MOA美術館、お母さまとの良き想い出があるのですね。所蔵品もさることながら、熱海の自然と調和した美術館の佇まいそのものが美しく、いつ訪れても豊かな時間を過ごすことが出来ます。木村武山のお軸をお持ちの先生・・・素敵ですね^^

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