人生初めてものがたり~骨折
十月最後の月曜日。
朝、庭先で転倒してしまいました。
音もなく、スローモーションのように体が倒れていき、不意に青空が見えたことを覚えています。
気がつけば、土の上、横向きに転がっていました。
すぐに起き上がることができたのは、体にほとんど痛みがなかったため。
けれど右足先が、ひどく痛みました。
「これは、もしかしたら・・・」
骨折では?と、思ったのです。
というのも、かつて姉が階段を踏み外して足の指を骨折したことがあり、
すぐさまそのことを想い出したからです。
果たして予感は当たっていました。
生まれて初めての骨折です。
「立派な骨折ですね。でも、ほら、このようにきれいに折れています。複雑骨折ではないですから、元通り、ついてしまえば大丈夫です」
レントゲン写真を見ながら、お医者様がそう仰いました。
見ると、細い枝を無理にしなわせて、ピシっと裂けてしまったような感じに骨が折れています。
「骨がつきはじめるのが、だいたい二週間後からですね。完全に治るまでは三ヶ月くらいです」
爽やかなスポーツマンタイプの先生で、無駄なく、的確に説明してくださいました。
が、何しろ初めてのことで、ショックでもありますし、心細くてたまらず
「出張することが多いんです。飛行機で遠方に数日間行くことも頻繁です・・・」
我ながら、か細い声で訴えたところ、
「歩くと腫れて痛みも強くなります。お薬で対処していくほかないですね」
相変わらず無駄のない答え。
そして、下敷きのような薄い板を取り出して、私の足の裏に当てたかと思うと
さささっと鉛筆で、足の形を写し取りました。
それをハサミで切り取って、水につけてから再び当てると、あら不思議、
板は柔軟に変形し、私の足にぴったりと寄り添いました。
「この添え板をつけて、テープで固定して、あとは靴下を履いておけば結構です」
なんと、今はギプスでさえないのです!
本当に薄い板(厚さは2ミリくらい)で、よくある医療用のテープでぺたっと貼り付けるだけ。
私は気がつきました。
痛み止めと炎症止めと、胃を守るための胃薬とを飲むほかは
とにかく自然治癒力を頼りにしていくということなんだ・・・。
というわけで、只今、骨折のため療養中です。
人生で初めての経験なので、最初はかなり戸惑いましたが、とにかく、しばらくはできるだけおとなしくしていることなんだ、と、心を落ち着けました。
10月最後の月曜日は新月でした。
これが満月だったら、もっと腫れがひどかったかもしれません。
新月だったことは、幸いだったのでしょう。
それに、庭先に石でもあって、頭を打ち付けていたらどうなっていたことか・・・
あるいは、もっと激しく倒れ込んで、背骨とか腰骨とか、大きな骨が折れていたらどうなっていたか・・・
いろいろ思うと、不幸中の幸いとしか言いようがない気がします。
右足の中指と薬指という、ごく小さな部分で済んだのですから。
いろいろ不自由ではありますが、こんなこともある、と、心穏やかに過ごしていこうと思います。
どうそご心配のありませんように。
